【我が家のクリエイティブノート】④どんな家が造りたい家なのか考える。
建築家の安藤氏とのミーティングは、和風住宅の勉強ともいえる作業から始まった。自分たちなりに本などで勉強してたつもりだったけれど、それは些細で上っ面なディティールだけでしかなく、一番大事なことがわかってなかった。私と妻がもっていた漠然とした民家のイメージを伝えると、安藤氏は以下の3つのバリエーションの話を始めた。
A) 古民家の移築再生
B) 新材を使った古民家レプリカ建築
C) 古材をつかった現代民家
実際に古民家再生された物件を見たりしていたが、かかる費用がわからなかった。数多くの古民家移築再生を手がけた安藤氏には、まずお金の話から入った(笑)。答えは簡単明瞭。
「新築費用+最低400万から。」
「え?古民家を使えば材料が浮くから同じぐらいでできるのではないんですか?」
「古民家移築で今の人が住める家にするのは、けっこう大掛かりなリノベーションが必要なんですよ」
「古民家と呼ばれるもので解体移築して再利用に耐えられるものは数少ないのです。東信付近の古民家の多くは、とても今 の生活や建築基準に耐えうる構造はむずかしく、大きな柱や梁をもつ新潟界隈の豪雪地帯の古民家を入手する必要があります。そうなると輸送代金は相応にかかります。
さらに誤解されているけ れど、古民家をそのまま再生しても今の生活様式に合わず結局構造の半分ぐらいは、新しい材料で補強したり増築しなくてはいけないのです。そもそも古民家には内風呂はない んですよ、水周りだって土間にしかない。
土壁もそのまま再生したら電気の配線はすべて露出配線になってしまう。構造計算の上、法律で定められた耐震補強も必 要になるから新築同等の建築費用がかかることになり、材料も古民家のものだけでは到底たりず、3割~半分ぐらいは新材を使うことになるから、結果としてこの金額になっ てしまうのです」
この時点で私たち夫婦は古民家再生が、自分たちの本質的なリクエストではないことに気がついた。
追分の県道沿いに立っている家や和風住宅に建築 例としてでてきてるのが、このタイプだった。
ひとくちに古民家レプリカといっても、いろいろな造作がある。木を木肌を向いて磨いただけの状態で梁や柱とし て組むやり方と、角材として製材してまっすぐな材木を組むもの。
古民家の多くはコストを抑えるために前者を使っているが、神社仏閣や商家、豪農などの家 は見えない梁の部分のみ前者で、目に移る部分は後者になっていることが多い。高価なケヤキ材やナラ材などは製材したほうが木目の木地が綺麗に浮かび上がる からだそうだ。
もちろん私たち夫婦はコストの ことも含め、意匠が力強い前者を選択するつもりでいたのだけれど、安藤氏の話はその思いを覆すほど納得できるものだった。
「そもそも古民家が造られた当時 は、製材をしないままの材料を使うほうがコストが安かったんですが現在は逆です。曲がった木は伐採されるとすぐに刻まれてチップにされてしまう。理由は輸送や乾燥のコスト効率が悪いから。
さらに良い材質の木ほど製材されてしまうので、ほんとうに良い木(ケヤキとか)を生成りで入手するのはきわめて難しい。杉でもなんでもいいからってことなら、その辺に生えてる木を使っても良いけれど、それでも今から天然乾燥させてる時間はなかなかとれないでしょうから乾燥が不十分なまま使うことになり、将来的なリスクが残ります。
またコスト的にも通常の角材の施工より生成りの木材を使うほうが、大工仕事の工数がかかります。乾燥させて製材された木にくらべて、生成りの木は曲がりや割れが出やすく、それを見越した造作が必要になります。あわせて長方形ではない曲線の多い梁や柱だと壁の左官工事や塗装の手間がかかってしまう。このやり方は予算が潤沢(青天井)でないかぎり、お勧めできないです。坪100万は最低かかります。」
土壁の外側に露出させた生成りの柱がすべて大壁の上に板として張られた飾り柱だったのだ。大壁の裏側は当然のごとく安い輸入木材。在来工法といいつつも柱の造作は大壁の内側に隠されている。
これじゃ大手ハウジングメーカーの 民芸調、民家調の張りぼての梁や柱と変わらない。それで坪80万以上って言うなんて高い金とってイミテーションなのかと正直に思ったけれど本物のレプリカを、まともにやったらもっとコストが高いからだったと、この期に及んで納得した(笑)
さらに続く安藤氏の話で、私たちの気持ちは100%翻った。
日本的な『もったいない』という思想です。せっかく民家を造るのならレプリカではなくリユースのポリシーを生かした現代民家をつくりませんか?古民家の移築と同じポリシーで、もう少しコストを抑えられますし、新築だから古民家の移築のような元の民家の間取りからの制約とかもありません」
「古材は単にコストを抑えるということよりも、現代では手に入れられない材料を入手できるメリットがあります。さきほど説明したとおり、今ではいい材質の生成りの木を手に入れるのは難しい。でも古材には現代ではめったに手に入らないようなケヤキの一本ものの梁などがゴロゴロあります。
しかも新材より安価に手に入れられますし、100年ちかく経てるものばかりだから、乾燥も充分、いまさら反りや割れが出ることはないので安心して使えます。
同様に建具も新規で発注せずに古民具にしましょう。これも今ではお目にかかれないような細工や材質のものを手に入れられます。もちろん汚れや傷などの傷みがあるけれど、自分の知ってる飛騨の建具屋さんに持ち込めば、きっちり洗って傷は修繕したり塗りなおします。
あわせて今の家にあうように、高さなどを直したりガラスを入れたりします。修繕費用をいれても新規発注の半額ぐらいに収まると思います。古材や古民具探しは、よければご一緒しましょう。そのほうが気に入ったものが選べますし私とイメージを共有できますから。」
この話を聞いて、妻も私も気持ちはC案で固まった。
古材・古民具を探せる楽しさなんてなかなか経験できるものじゃないわけで、単に家を建てて手に入れるってことだけでないプロセスの楽しさも味わえるのだから最高だ。早速、そのコンセプトに沿った設計を安藤氏に依頼した。
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コメント
moutonさん>
予算があるからこそ、創造力が必要だな~と仕事でもよく思います。実際ここからが家作りの醍醐味でした。理想と予算の戦いを知恵と創造力と決断力でのりきりました(笑)。
Mollyさん>
自分の仕事は、家をたてることにすごく近いんですよね。だから、本当に仕事モードでやりました。プロデューサーとして自分の家をプロデュースする。クライアントはかみさん(笑)。
だから、普通の人とはちょっとプロセスや考えかたは違うと思います。建築家が楽しかったかどうかはわからないですけど(笑)
投稿: ta_tsu | 2007.10.06 13:45
ta_tsuさん、私にta_tsuさんのように家に対する思い入れと知識がもう少しあったら、今の家ももっと違う家になっていただろうな、と思います。
今の家はあれで満足していますが(するしかないですが)、少なくとも彼には仕事頼んでませんでしたよね…(^^;)。
また見学に行かせてくださいね!
(それから時間があったらもっとおしゃべりしていたかったですー。)
投稿: Molly | 2007.10.05 19:29
理想とコストの差が大きい程、現実の厳しさを思い知らされますよね。しかし努力とアイデアで壁を乗り越えた時の嬉しさも一塩と思います。いい家になりそうですね!
投稿: mouton | 2007.10.05 16:54
KUNIEさん、コメントありがとうございます。
何かに書き留めてないと忘れそうなので、自分自身の備忘録として書いてます(笑)。家の近況をアップしようと思いつつ、忙しさにかまけて放置している間に、工事が進んでしまって近況じゃなくなってるんですよね;;;
投稿: ta_tsu | 2007.10.04 23:56
ta_tsuさん、こんばんわ。
家のお話し、なかなか力作ですね。楽しませてもらってます。
投稿: KUNIE | 2007.10.04 19:19