【インプレション】1Mクーペで走った。

BMW Japanによる正式な国内販売されなかった1Mクーペは、ここ最近で自分が最も乗ってみたかったBMW車だったのだけれど、そのことを知った友人の手配で昨夏、運良く試乗する機会を得た。車両はドイツ仕様でストックのままとのことだった。

ぱっと見、135iに見えるが、４本だしのマフラーとディフェイザー、大きく張り出したリアバンパーがM Styleではないことをアピールしている。

ぎっちりと詰まったエンジンルーム。フロントのアッパーマウントの位置を見る限りエンジンはフロントミッドシップではなく前側にのっている。それもあって前後配分は、公称で51.7：48.3。

タイヤはミシュランのPS2。前が245/35 R19、後ろが265/35 R19リアをみると太いホイールにタイヤを引っ張り気味でいれてる感じで見た目はかっこいいがちょっと頼りなげ。ブレーキはM3と同じで360ｍｍ、350ｍｍのドリルド、十分に効きそうにみえる。

試乗のため、あさまヒルクライムのコースとなった高峰チェリーパークラインへ

DSCをきらずにワインディングを走り出して感じたのは、思ったより難しいクルマという印象。まず、リアのグリップが不足気味。265R19のPS2ではチェリーパークラインの上りという、加重ががっつりリアに掛かる状況で受けきれないで滑ってしまう。しかも滑らかに滑りだすのではなく、タイヤ負けしてばたつく感じでトラクションが不安定になり、結果としてトラクションコントロールが掛かってスロットルがしぼられてしまう。

この道は、Z8でもちょくちょく走っていたところだから、この挙動はちょっと意外だった。Z8の場合、DSCが入っていてもテールは緩やかに滑り出して、そのなかで踏ん張りつつ、クルマを前に押し出してくれた。そう思うと、1MクーペにZ8につけていたPZeroの275をはかせたらフィーリングが良くなるような気がした。

途中からDSCを切って走ったのだが、やはりリアのグリップが不安定なこともあって、新型LSDのフィーリングがいまいちつかみにくくてあまり踏み切れず。スロットルオフでのターンインでのフロントの入りはいいのだけれど、その後スロットルオンでの回り込みが予想より弱く、アンダー気味になるのが気になった。この辺り、前後のタイヤの空気圧を0.1ぐらいの幅で微調整したら意外によくなるかもしれない。

エンジンは、必要充分なトルクでかつ伸びがあって、まったくストレスがない。高峰の急坂もプッシュせずに緩く走るのなら、ほぼ3速でカバーできてしまう感じ。もちろんターボラグは皆無。４本だしマフラーの野太いエクゾーストが中低回転では気持ちいいが、上をまわした時の抜けの快感は控えめなので、マフラーを変えたくなるオーナーは多そう(笑)

ワインディングを昇るにつれ、徐々にタイヤが熱くなって内圧があがったのか、表面がひと皮剥けてきたのか、リアタイヤの挙動が安定してスライドするようになった。後述の動画の後半では、コーナーの立ち上がりでテールスリップするスキールが出るようになったことでわかると思う。

頂上まで駆け上がったあと、ちょっとエンジンをさまして下ったが、下り坂で実感したのは、圧倒的なブレーキ力。高峰下りは、スロットルを開けて下ると大概のクルマのブレーキが煙を上げフェードする過酷な場所。対フェードが十分なブレーキだと夜走ればローターが真っ赤になるほど。

1Mクーペのブレーキは十分で、短く踏むだけで十分に減速できるだけでなく、ABSの介入もギリギリまで読みやすい。おかげで、ガッツりスロットルを踏み、ブレーキも踏み込んで下っても煙が出なかった。２往復しても変化なし。最近のBMWのブレーキはほんとうに良くなった。

今回乗ってみて感じたのは、このクルマは、そのポテンシャル故にじっくり乗り込んでタイヤサイズや空気圧、アライメントなど細かなセッティングをつめていくプロセスを楽しむクルマだということ。その過程で自分のターンインのタイミングやラインも微調整していくことで、かなり気持ちよく駆け抜けられとおもう。

このあたりが、いきなり乗ってもそこそこ楽しく走れてしまう991やAudiのS5などとの差。おそらく乗り始めは135iよりも扱いにくい部分ばかりが目立つかもしれないけれど、自分でセッティングを追い込んでいくプロセスを楽しめる。そういう意味では、このクルマのオーナーである友人が羨ましい。

残暑の中、このような機会をつくってくれた友人のN氏に深謝。

P.S 試乗時に車外に取り付けたGoPRO HERO2で撮影した動画はこちら。